基調講演・東京工業大学名誉教授 鈴木忠義氏

川は常に美しくなければ

 

 今、日本は観光を通じて国のあり方を考えるとき。観光とは自分の金と時間を使って感動を得に行く行為であり、非日常なのだ。しかし、現状はものを売りつけることを主眼に置き、国が旗を振っているにすぎない。再び訪れたいという国づくりでなければいけない。日本はものづくりが得意だが、国づくり、街づくりも上手だと言われるようになりたいはず。空間の活力は、用(機能)、強(安全)、美(美しさ)があって初めて成り立つ。古代ローマの人々はこのことを知っていた。だから世界遺産として今なお残っている。これこそがものづくりの思想なのだ。

 そのための素材に隅田川を挙げたい。隅田川の自然や歴史、文化といった大切な資源は、人口や経済が集積する首都東京の市場性と絶妙な関係で共存している。全国の都道府県を見ても、隅田川のような川を持つ県庁所在地は少ない。隅田川を通じて、新しい首都の顔を形成していきたい。

 では、街づくりの『用』『強』『美』とは何か。それは心のよりどころになる聖なる空間整備が必要になることだろう。沖縄県の復興の際、県を一周する道路を必ず整備することを、本土復帰の条件にした。そして数カ所に神様を拝む場所も造った。聖なる空間がある。このような価値観を、国、街づくりにどう取り入れるかを考えなければならない。

 隅田川の現状はというと、レクリエーションの場として姿を変えつつある。かつては隅田川沿いには料亭、別荘があった。桜も植え、憩いの場として今につながっている。遊覧船も航行するようになり、お互いに見る、見られるの関係ができ始めた。景観形成の大切さが醸成され始めている。

 こうしてみても、ようやく河川計画の思想が変わってきた。川に触れることを考えなければという価値観が出てきたということだ。要は防災、都市問題、農業用水の利用だけでなく、美しさや景観的な価値を認めようとしている。これは日本が豊かになった証拠。第二次世界大戦後、花火大会が始まったが、高度経済成長以降、中止された。しかしその後復活した。

 つまり、このように隅田川を歴史的経緯の中でとらえていくことも必要になる。歴史に教わり未来を発想する、歴史はいわゆる未来学だ。歴史は今の状況をどのように処置するかという判断力を与えてくれる。

 最後に、川は自然と戦っている。いつ災害が起こるか分からないが、常に美しくなければならない。大切なのは過去の歴史を探りながら、川の概念や人間とのかかわり方を模索し、それを実現するための技術論、デザイン論へとつなげていくことだろう。