◆パネルディスカッション「美し国づくり-新生・玉名での可能性はいかに」

◎出席者

 NPO美し国づくり協会理事長 進士 五十八氏

 慶應義塾大学特任教授         伊藤   滋氏

 フリーアナウンサー           須磨 佳津江氏

 NPO美し国づくり協会顧問   青山  俊樹氏

 玉名市教育長                 森   義臣氏

〈コーディネーター〉

 熊本県立大学理事長           蓑茂 寿太郎氏

 

 蓑茂 このパネルディスカッションでは「新生玉名」という言葉が使われている。新幹線ができ、人が流れることで経済が動く、そういう時代が新生玉名の一つの姿ではないかと思っている。一方で、かつて玉名には菊池川流域のものが高瀬から船で運ばれてきた歴史もある。そういう流れを踏まえて、皆さんと語り合っていきたい。

 青山 わたしは、建設省に入って主に河川畑を歩いてきた。この菊池川を見せていただき、「いい川だな」としみじみ思っている。玉名の街は、菊池川の流れとともにあるというのが、一つの大きな全景で見た場合のポイントだろう。残念なことに、時間軸が京都に比べて浅い。玉名には古墳もあり、本当の意味での時間軸は売りにもなるが、庭園とか建物とかの目で見ると、どうしても時間軸が浅い。ただ、500年経てば堂々たるものになる。蓮華院の建物はしっかりと造っており、この街が、菊池川と相まって続いていってほしい。

 森 すべての景観、花や緑、水、こうしたものに対する感性を磨くということは教育でしかできない。これはわたしに「もうちょっと頑張れ」と激励されたと受け取っている。わたしは高校で教鞭をとっていた。部活動の吹奏楽では、米国のグレンミラーフェスティバルにも招かれ、これが契機になって、玉名を「音楽の都」にしようという話になった。しかし、非常にこれは難しい。なかなか市民に広がらない。教育や音楽は心から感性を磨かなければならない。教師がもっと目を開き、地域の人たちも一緒になって子どもたちが玉名で教育を受けてよかった、そして玉名に帰って余生を送りたいと思うくらいの玉名づくりに貢献していきたいと思っている。

 須磨 感性についてよく考えることがある。花や緑にかかわる人と話をするうちに、やはり命とかかわるということが感性を磨くと思うようになった。それは、人の痛みを感じるからだ。緑や花を愛する人は大木を切った時に「痛い」と言って身を縮める。それは、育てていると「生きている」という感覚があるから。相手の身になって物事を考え、命と付き合っていくうちに、体の中に毎日しみこませていくものが感性を磨くのではないかなと思っている。

 伊藤 日本の町が美しいと思うのは川筋だ。ある町のイメージというと必ず日本では川と市街地の組み合わせで、「あの町はいい」とか「あの町は汚い」とか判断する。その点、玉名には菊池川がある。玉名のこれからを決めていく重要な資産だと思っている。川筋とそこにつながる市街地の組み立て方を混然一体として考えてほしい。そうすると、玉名の素晴らしい町が出来上がってくる。

 進士 花は園芸の世界、造園は木の世界だ。わたしが言いたかった「みんなちがってみんないい」というのは、それぞれいいということ。場所によって花を使っていいし、場所によって木を使えばいい。感性というのは「ものの価値に気づく能力」と辞書に書いてある。拡大解釈すると、ものの価値にも気づくし、人の価値にも気づく能力だと思う。知識や知性とはそこが大きく違う。そういう価値観を持つには、体験する、現場に出ることが必要だ。川に行けば、同じ川でもこんなに違っていることが分かる。

 蓑茂 今日は美し国づくり協会の方もお見えになっているが、石井(弓夫)先生いかがでしょう。

 石井(会場から) いま一番関心を持っているのは津波に対してどうするかということ。堤防もつくる、かといって景観を壊さないというのが一つ。それから、安全になっても商売が成り立たないと意味がない。安全で、商売があって、景色も良くて、そういう社会をどうつくるか。解答を持ち合わせているわけではないが、正面から取り組んでいきたいと思っている。

 進士 津波が発生した東北地域に式内社(平安時代からの古いお宮)が約100社あって、被害を受けたのは2社だけ。昔は津波に遭わない安全な場所を選んでいた。いまは、いい場所に上手に(建物を)入れる知恵はあるが、それをコントロールできる力がない。コンクリートを過信しすぎたともいえる。土木の範囲だけで考えないで、自然立地の考え方を基礎においた土地利用計画など、自然や歴史、科学技術、土木・建築など、いろいろな知恵を総合化することが大切だと思う。

 蓑茂 玉名は有明海を埋め立てて街をつくってきた。海を埋め立てて学んだことを生かしながら、里山再生など新しい地域づくりが新生玉名で起こってくることが、美し国づくりの流れにつながる。

 進士 下手な絵でも街が良くなるには額縁が大切だ。川や山並み、水際線、大きな道などの景観、額縁をしっかりすることが大事だ。これは、国や自治体が長期計画を持ってやってもらわないと困る。

 青山 熊本の川のイメージは火の国だ。白川、緑川も災害が発生している。球磨川は大洪水が起こった頻度が全国一級河川で一番多い。川辺川はダムも中止なったが、熊本県民を愛するなら治水事業はもういいとは絶対に言えない。コスト縮減や目に見えて効果が出ないこともあって、「もういい」といった雰囲気になっているが、こんな危険な状態はないと言いたい。

 蓑茂 川がある街に住むことは、川に接するということ。川に背を向けず、もっと川と接した暮らし方ができるのでは。玉名でも、川をウオッチングしていけば、新しい街づくりの考え方も出てくる。

 須磨 人間は古代から川が危ないと分かっていて、自然と上手に暮らしてきた。いま、人間を過信しすぎているような気がする。事故は起こるものだし、自然も時には驚異になるということを理解した上で、リスク対策をする。つまり、未来を考えるとき、何かが起こったから考えるのではなく「過去に学ぶ」ことが原点だと思っている。過去に学ぶには、玉名は最適な場所だ。人が生きる原点の豊かさがあった。その豊かさは何だったのかを探して、玉名らしい街づくりを進めてほしい。

 伊藤 公共事業の目的は変わってきている。経済効率だけでなく国土の保全を考えた事業もある。少しずつでもコンスタントに投資することが、これからの地方都市、特に県庁所在市以外の中小都市の維持に大きな役割を果たす。

 蓑茂 大切なのはシンポジウムを開いた成果をどう生かすか。ぜひ、記録をつくっていただいて、ネットワークが広がっていけばいいと思っている。

 進士 美しという言葉に込められているのは、美観だけでなく日本人の心もある。これを含めて再生すべきだと思っている。地方の都市がだめになるのは、自分の街を大切にする気持ちを忘れているから。日本人の共通の問題は、自分で判断せずに一律に行動しようとするところ。自分で判断して行動しないと究極の美しいものもできない。皆さんは、ちょうどいいスケールの街に住んで、歴史という財産を持っている。何もない街は絶対にない。ないのは「やる気」だけ。それをやるリーダーが出てほしい。ぜひ、美しという言葉を使っていただいて、美し国、美し人を育ててほしい。今日がスタートだ。

 

森  義臣氏

 

 

青山 俊樹氏

 

 

 

蓑茂 寿太郎氏