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私の景観論

 日本百名山のひとつ、妙高山の裾野に広がる新潟県妙高市は、豊かな自然とともに数々の名湯やウィンタースポーツのメッカなどとしても知られる。ことし4月に新井市、妙高高原町、妙高村が合併し誕生。文字通り、妙高山麓エリアと行政圏域が一致することとなった。旧新井市長から妙高市の初代市長に就任した入村明氏は、この広大なフィールドにおけるまちづくりに当たり「人と自然が共生し、すべての命を安心して育むことができる『生命地域(バイオ・リージョン)』の創造」という理念を掲げる。そのビジョンと展開方策を聞いた。

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 旧新井市の市議を経て2002年11月に同市長に就任。その後の合併に向けた協議のなかで「生命地域の創造」を新市のまちづくり理念として打ち出した。

 「効率や便利さ、経済原理を優先し、環境を徹底的に破壊してきたこれまでのまちづくり。季節感はなくなり、作った人の顔の見えない均一な食材が出回り、ごみ問題も切迫している。限りある地球資源を考えると、ほんとにこのままでいいのだろうかと訴えた」

■地域再生へ自然環境に付加価値
 バイオ・リージョン(生命地域)とは、「バイオ(=命の)」と「リージョン(=地域)」の合成語。気候、地形、生態系などの自然の要素やその地域で培われてきた文化などで括(くく)った地域を指すものだが、入村市長の提唱する「生命地域」にはもっと能動的な意味が込められている。

 身体と大地は一体であるという「身土不二」の考えに基づき、「すべての生命を安心して育めるまち」を「創造」していこうというものだ。

 「幸い、妙高にはいま、安心して命を育み、人間性を回復できる豊かな自然環境が確かにある。しかし、こうした自然と調和した生活を今後続けていくためには、地域に目を向け、わたしたちの地域にあった生活様式や文化、自然環境などを大切にしていくという問題意識が欠かせない。さらにその自然や環境に付加価値を付けていくことが、地域再生へのステップとなる」と、アクティブな取り組みの必要性を強調する。

 その実現への柱となるのが「スローツーリズム」「グリーンツーリズム」「アート&カルチャーツーリズム」「メディカルツーリズム」の4つだ。住民にとって住みよい地域は、訪れる人にとってもよい地域であり、豊富な地域資源を活用し魅力ある地域をつくることで交流人口の拡大も図るという戦略だ。

 例えば、市の支援を受け民間ベースで取り組みが始まった大葉のミスト栽培。高齢化による後継者不足に悩む中山間地農業の活性化とともに、無農薬栽培による安心できる食材の供給、高齢者や障害者の雇用の場の提供といった面でも期待されるため、地域資源を生かした次世代型農業として市も力を入れている。ことし9月には農業経営基盤強化促進法改正後では全国初となる、株式会社の誘致・参入も決まり、高品質の大葉生産、出荷が今後本格化する。

■住民、NPO中心のビジネス構築
 NPOやボランティアなどの市民主体の活動との連携も重視する。耕作放棄された棚田を活用したどじょう養殖への取り組みや、NPOでかぼちゃを生産する活動も具体化しており、「これらNPOなどが中心となったコミュニティビジネスを立ち上げていく」ことを描いている。

 「(住民の)意識が醸成できるまで、自主性が芽生えるまで、(行政が)タメを持てるかどうかです。ようするに自然体で取り組むということ。時には時間もかかる。しかし長続きするにはそれが一番」。市民自らによるまちづくりが生命地域創造の要諦でもあると説く。

 06年度からのスタートに向け策定作業が始まっている同市の第1次総合計画構想。素案には生命地域の創造をベースに魅力ある自然景観の保全や形成が盛り込まれており、「土地利用計画と合わせ景観行政の具体的方向性を出せると思う。景観行政団体の指定も考えている」と結ぶが、バイオ・リージョンそのものが、景観の維持・再生・創成の原点との想いを抱いているようだ。

2005年11月14日付『建設通信新聞』より

自然体で取り組む
『生命地域』の創造
妙高市長 入村明氏
妙高山麓に広がる豊かな自然景観、農村風景は「屋根のない博物館」
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