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私の景観論

 名にし負う伝統と文化の街、金沢。しかし当地の人々は、歴史の香りただようその美しい街並みを過去からアプリオリに受け継いでいるわけではない。根気の要る保存や地道な磨き上げの作業があってこその現在だ。さらに伝統的建造物群の保存も、丘陵の緑や街中を縦横に流れる用水の保全もむしろ、近代的都市景観の形成が契機となって本格化したといっていい。「守るところと開発するところをきちっと区分けする『区分けの理論』」こそ、金沢の景観づくりの要諦であると説く山出保市長に聞いた。

◇     ◇

 「浅野川と犀川に囲まれた兼六園を中心とした区域は保存。香林坊から武蔵ケ辻の都心軸線と金沢駅、金沢港へと至る新しい街は開発。この二つをごっちゃにしたら(金沢は)ダメになる」

 平成元年に制定した景観条例「金沢市における伝統環境の保存および美しい景観の形成に関する条例」は、「伝統的環境保存区域」と「近代的都市景観創出区域」とを明確に規定。保存対象物も指定する。指定された建造物や区域では建物の高さや色などについて基準が設けられ規制を受ける。眺望景観を保存する基準も設けられ、指定区域では一定の眺望を確保するよう建物の高さや広告物が制限される。

 同条例の前身は昭和43年に制定された「伝統環境保存条例」で、当時は倉敷市と並び日本で初めての景観条例だったという。金沢出身の建築家、谷口吉郎らのアドバイスを受け制定した同条例は、当初条文も少なく「いわば宣言条例だった」。その後市域拡大に伴い開発区域の景観も課題となり、内容を充実させながら平成元年の景観条例へと結実する。

 「これだけいろんな角度から内容的にも精緻な基準を作っているのは日本で金沢だけ」と自負するだけあって、景観まちづくりに関してはこのほか、こまちなみ保存条例、伝統的建造物群保存地区保存条例、歴史的文化遺産である寺社等の風景の保全に関する条例、斜面緑地保全条例、用水保全条例など、合わせて20弱の条例がある。

■法律施行以前の40年前から取組み
 「ヨーロッパと比べ、日本の景観のなんと醜悪なこと。戦後60年の都市計画の最大の欠点は、『顔の見えない町』『汚い町』を作ったことだ。僕らは40年前から(景観への取り組みを)やってきた。昨年景観法が施行されたが遅すぎる」と手厳しい。

 ただ、市のこれまでの取り組みも平坦だったわけではない。両手に余る景観関連条例で施策展開していくには「市民の意識が高くならないと実施できない」。金沢の歴史的街並みを代表する「ひがし茶屋街」は、伝統的建造物群保存地区の指定に至るまで25年の歳月を要した。

 暗渠にされ、駐車スペースと化していた用水も、「市職員が関係者に根気よく協力をお願いして」開渠化を実現。潤いとやすらぎの空間が復活したことで商店街として再生した。いまは車が行き来する「広見」と呼ばれた広場空間も、もとのコミュニティ空間として復活させようと、「コミュニティの形成に関する条例」をことしの3月議会に提案する予定だ。

 大規模小売店舗立地法により出店規制が緩和され、都心空洞化が進むことを懸念、01年には出店者に建物の用途や規模について事前協議を求める「良好な商業環境の形成によるまちづくりの推進に関する条例」を制定した。「強制力はないが、規制緩和に逆行するとして国には反対された。でも、いまでは(まちづくり3法の見直しなど)その方向に動いているけどね」と笑う。

■条例の権限を法と同等以上に
 建物との調和をテーマに建築や修景などを選定する金沢都市美文化賞を昭和53年に創設。旧町名復活推進に関する条例も制定、すでに七つの旧町名を復活させた。歴史と現代生活が交錯する街並み景観の本質と大切さを市民に理解してもらいたいとの思いから取り組み始めたものだ。

 景観法について「法と同等もしくはそれ以上の権限を市の条例に与えるべき。これからの大きな課題だ」。景観行政のトップランナーはまたそのオピニオンリーダーでもある。

2006年2月6日付『建設通信新聞』より

「区分けの理論」
こそ景観づくりの要諦
金沢市長 山出 保
市を流れる浅野川。「ひがし茶屋街」「金沢駅」と並び、市長が推薦する市内3景の一つだ
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