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私の景観論

 明治から昭和初期にかけて北海道経済の中心として繁栄し、この時期に相次いで建設された銀行、商家、石造倉庫、漁家などの建物が歴史や文化を今に伝え、このまちならではの街並みを形成している小樽市。まちが醸し出すノスタルジックな雰囲気が多くの人々を魅了し、今や年間700万人を超える観光客が訪れる観光都市に成長した。その歴史的景観を持つ優位性を将来に引き継ぎ、市民とともに特色あるまちづくりに取り組む山田勝麿市長に「港町おたる」について聞いた。

◇     ◇

 小樽市の景観行政の取り組みは、道道臨港線の建設による小樽運河の埋め立て計画に反対する市民運動が現在のまちづくりのきっかけになっている。「その運河論争を経て、歴史的建造物や街並みに対して市民の認識が高まり、住民や行政が協力し合い歴史的景観をまちづくりに活用しようとの機運が生まれた」

■運河と倉庫群は守るべき財産
 「小樽運河と並行して倉庫群も一体的に整備し、過去に繁栄した時代の建造物を残していくことが、今後の大きな財産となる」と語る山田市長は、1983年に景観保全への強い姿勢を示す意味から、率先して運河沿いの「旧小樽倉庫」を買収し、小樽博物館、観光物産プラザとして活用、また「旧日本郵船・小樽支店」の保存改修に積極的に取り組んだ。

 その後90年に市内中心部に10階建てマンションの建築計画が持ち上がったが地域住民の反対運動が起き、市民グループや経済界もそれに同調。このマンション問題を契機に大規模な建築物に対する誘導の必要性と眺望景観の重要性について市民の関心が高まり、総合的な都市景観条例の制定が求められるようになった。小樽市はこの要請を受け、先の条例を引き継ぐかたちで「小樽の歴史と自然を生かしたまちづくり景観条例」を施行した。

 小樽市は、近年、高層建築物の計画や建設が急増してきたことを危惧し、市民の共有財産としてシンボル的な地区を「特別景観形成地区」に指定した。「小樽運河周辺地区は小樽の財産であり宝。守るべきものは守り、価値を下げるつもりはない」

 「新しいものと古いものが混在する中で、歴史的価値の優位性は尊重していきたい」と語る山田市長は、新都市景観形成地区として、沿道にあった2棟の北海経済新聞社と北海道紙商事を「曳き屋方式」で移転保存を図ったほか、民間では02年に石屋製菓が旧三井銀行小樽支店を買収するなど、官民が一体となったまちづくりに今も積極的に取り組んでいる。

■官民一体となりまちの復元に尽力
 年間700万人が訪れる全国有数の観光都市としてさらに発展を遂げるために、「金沢市、倉敷市なども視察し、知恵をいかすまちづくりをめざし、全国都市フォーラムの開催にこぎつけることが出来た。それぞれのまちの景観活用の姿を参考にして、小樽市として今後も独自のまちづくりに取り組んでいきたい」と意欲を示す。

 小樽市は港町としての顔を持っているが、「海から見た景観も素晴らしいものであることを訴えたい」と山田市長は、まちの魅力を十分に把握しつつ、新たな観光資源の開発にも前向きだ。

 まちの魅力を理解した人々が小樽市に移り住み、まちの復元を図る努力を行うなどの市民独自の動きも活発で、昔ながらのまちの魅力を取り戻そうと市民を巻き込み、さまざまな取り組みを行っている。「古いものを復元させる努力と新しいものを融合させるために今後も我々が持つノウハウなどを市民の方々に提供していきたい」

 小樽市では、市民の景観への関心を高める目的で建築物や景観を演出するイベントを対象に「小樽市都市景観賞」の表彰も行っており、05年度までに55件を表彰した。このほかにも『小樽八区八景』と題したパンフレットなども配布し、市民への周知を行っている最中。

 新しいまちづくりへ向け景観法の活用も考えながら、周辺と調和した景観形成をめざし「港町おたる」の魅力を市民とともに未来永劫に引き継いでいく姿勢に今も変わりはない。

2006年5月23日付『建設通信新聞』より

歴史的価値の優位性尊重
新と旧を融合
小樽市長 山田勝麿
大勢の観光客で賑わう小樽運河。まさに小樽の顔として、訪れる人たちをノスタルジックな雰囲気にいざなう(浅草橋街園から望む)
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