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私の景観論

 武蔵野台地に位置し、都心から程近い地域にありながら自然豊かで、長い間にわたり、緑が保たれてきた街、東京都目黒区。その魅力は、21世紀となった現代でも多くの人々を惹きつけてやまない。区民のうち95%もの人々が「これからも住み続けたい」と願うほど定住性が高く、さらに区外からも人々が流入するという状況が続く。変化と維持の両面が求められる中で、青木英二区長に景観とまちづくりの考えを聞いた。

◇     ◇

 目黒区役所の屋上は、緑化が施され、庭園となっている。区民にとってはまさに「憩いの場」だ。"緑が豊富"な区ならではの光景といえる。しかしその場所には、発案者である区長のさまざまな想いが込められている。

 区長は、区内でとくに推薦したい景観の地として「目黒川の桜」と「自由が丘の街並み」、そして「目黒通り沿い」の3カ所を挙げる。

■保たれた自然、緑は区民の努力
 このうち「桜」は、区が誇るべき自然、緑の賜だとすれば、その緑も「区民によるところが大きい」のだという。一般に「緑が多いというイメージの目黒区だが、実にこのうちの6割は民有地によるもの」と明かす。

 公有緑地が少ないために、放置すれば相続税対策、市場原理などの理由で減少してしまう可能性がある。このため、「これまで環境保全を目的に、高さ制限、敷地制限など条例による保護を進めてきた」といい、さらに「11月には『まちづくり条例』を制定する」予定だ。

 その胸中には、区が誇としてきた「長い歴史の中で培われてきた緑、充実の生活環境を守っていきたい」という思いがある。その上で「まちづくりとは、長期的な視野に立った上でとりかかるべきものであり、それは住民の合意形成があって初めて成しえるもの」という。区長としては「区民と一体となる」ことで、区独自のまちづくりを進めていきたい考えだ。

■住民の合意あって初めてなしえるもの
 区長は、2007年度までに区の都市景観形成方針を改訂し、「将来的には、区を景観行政団体へと移行させる」という。

 区長が2つ目に挙げた「自由が丘の街並み」とは、人間が知恵の限りを尽くすことで生まれる、いってみれば“意匠による景観”だ。区長は「この風景が、学生のころから本当に好きだった」と目を細める。

 しかし、その意匠とは、単に見た目の美しさだけの追求に終わるのではない。むしろ、そこには「安全・安心なまちづくりを進めていきたい」という区長の意志、すなわち区民への思いがある。「私は『電線の地中化』を選挙公約として掲げてきた。その理由は、地中化などきちんと道路が整備されていれば、万が一、災害が生じても被害を最小限に食い止めることができるからだ」

 区内では、9つの道路を新たに優先的整備対象として位置づけており、10年以内の地中化をめざす方針だ。

 区長は「目黒通り沿い」を3つ目に挙げた点を「道路と都市機能が非常にマッチしているから」と話す。さらに「現代社会の中では、道路と街とは、セットで出来ており、互いに切り離せないもの」と指摘。その意味で現在、東京都が中心となり進めている大橋一丁目地区の再開発事業は、新たなまちづくりをめざす上で「『都市と道路を融合』させた、非常に意義の深いものだ」と指摘。「区は、都や首都高速道路公団に任せるだけでなく、率先して長い時間をかけて住民と協議し続けた」と明かす。おかげで「再開発後も、地権者で戻ってきたいという人々は多い」という。まさに「地元の人々の協力を得ることで出来た」

 「都市の景観とは、数多くの人々がかかわりあい、長い時間をかけて育まれていくもの。その景観の根底には、間違いなく安全・安心のまちづくりが流れている」と考える。そこから「本当に住みたい、住み続けたいと思ってもらえるまちづくりを進めていきたい」と意欲を示す。

2006年6月5日付『建設通信新聞』より

“本当に住み続けたい”
まちづくり
目黒区長 青木英二
区庁舎屋上庭園「目黒十五庭」。昼休みには区民がランチを楽しむ
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