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私の景観論

 昨年夏、埼玉県八潮市に初めての鉄道駅が開業した。つくばエクスプレス(TX)八潮駅。東京・秋葉原駅とわずか18分で結ばれ、駅周辺はいまベッドタウンとしての開発が進行している。多田重美市長は、“最後の鉄道”ともいわれるTXの沿線都市として「高度成長期の反省を踏まえた街づくりを進めなくてはいけない」とし、人口流入には「新しい市民のために武蔵野の原風景を守るとともに開発の縛りも検討している」と話す。

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 八潮駅の1日の乗客数は、当初の3500人から、半年足らずで7500人までに増加した。「5年で8000人」の目標を上回る勢いは「想定外だ」と苦笑う。

■新しい街づくり、基本理念は『質』
 駅ができると決まった途端に土地が値上がった。放置するとバブルのようになり、歴史の教訓を生かさない街をつくることになると感じたという。「戦後高度成長期は、道路をつくればいい、建物は大きい方がいいという『質より量』の時代。しかし『質』のいい街をつくることが新しいまちづくりの基本理念になる」と冷静に見る。

 量から質へ転換するイメージは、市民に分かりやすく「品格ある街」と置き換え、折りに触れて主張している。ことし駅前にオープンしたショッピングモールのデベロッパーにも「品格のある店舗展開をお願いした」という。情報産業の集積地・秋葉原と研究都市・つくばを結ぶTXのイメージに合い、都内から乗って最初の地上駅として相応しい街をめざす。

 駅周辺265haでは、県、市、都市再生機構で土地区画整理事業が進む。このほかに進行中と事業完了済みの区画整理区域を合わせると、実に市域面積の4割を占める。

 白いキャンバスに絵を描くような街づくりは「50年後、100年後にも頼る礎を築くのが自分の役割」だと使命を感じ、その一つが景観づくりだと位置づけている。

 マンションの分譲が一部で始まり、駅開業後、人口は半年で400−500人増えた。現在も複数のプロジェクトが計画中。そこで「身の丈にあったまちをつくるべきだ。マンション乱立は避けたい」との思いから、商業地域を除いた駅周辺に、都市計画法にもとづく25mの高さ制限導入を検討。「最高8階建てで統一感のとれた街並みにしたい」と考えている。戸建てに対しては最低敷地面積を確保する。変化の波は、中小企業にも押し寄せる。東京の下町から誘致した金属加工業などが集積する地帯では、近隣の住宅開発などで、街並み整備が課題となっている。

 秋葉原駅、東京駅へ通勤している層が、新たに通勤に便利になった八潮に新居を求めて移ってくるのが、意外にも「神奈川方面からの人たちが多い」という。

■魅力は里山資源と武蔵野の原風景
 転入の判断基準は「教育、環境、景観に対する行政の取り組み」に加え「中川が流れ、なだらかな河川敷があり、富士山が見えるといった里山資源だ」とみる。「都心から近いのに、武蔵野の原風景が残っていること」が八潮の魅力になっているという。

 中川をはじめ、草加市との間に綾瀬川、東京都区部との間に垳川がけかわ・大場川、市中央に葛西用水が流れる。四方を川に囲まれ、元来は田園地帯。民家にも「塀の内側に植わった柿の木が風情を出すような、都市化された街にない雰囲気がある」

 伝統建築も残している。江戸時代中期の建築とされる和井田家住宅は、茅葺きの寄棟造。敷地には長屋門、水塚、稲荷社が残り、周囲にめぐらされた構堀が中世居館の面影を留める。昨年12月に国指定重要文化財(建造物)に指定された。

 日本の原風景を生かし「外国の人にも散歩してみたいと思われるような街」を構想する。石川県の金沢の街づくりを一つの手本としている。「京都、奈良、鎌倉は中国、東京、横浜は西洋を手本にした。日本独自の方式できているのは金沢」との都市観を持つ。

 自分たちの街だけでなく、TX沿線12市区町村で構成する「つくばエクスプレス沿線都市連絡協議会」でも、「街づくりの提案をしていきたい」と展望する。

2006年6月13日付『建設通信新聞』より

50年後、100年後
にも頼る礎を築く
八潮市長 多田重美
新たな街づくりの中心となる「八潮駅」。都内からつくばエクスプレスに乗り、最初の地上駅となる
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