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私の景観論

 80万人を超える人達が暮らす住宅都市・世田谷区。東京都区部の南西に位置し、区の南部を流れる多摩川に沿って、貴重な樹林地が線状に広がる「国分寺崖線」と呼ばれる連続した崖がある。「風景づくりを大切にしてまちづくりを進めている」と語る熊本哲之区長に景観に対する考えや取り組みを聞いた。

◇     ◇

 世田谷区は、成城や奥沢、等々力など武蔵野台地に広がる成熟した住宅地として、また豊かに水量を湛え流れる多摩川、その多摩川から野川沿いに続く国分寺崖線、そして二子玉川、三軒茶屋、下北沢などのにぎわいのあるまちなど、自然や生活に根差した個性的で多様な都市風景を形成している。この風景を守り、育て、次世代に受け継ぎ発展させる風景づくりに、区民とともに1980年から取り組んできた。

 熊本区長は「風景は風土、文化、歴史の表れで、そこに住む人達の生活の積み重ねによって形づくられる。安全で安心に暮らし、潤いのある生活を送ることによって美しい風景がつくられる」とポリシーを語る。

 風景づくりをベースとしたまちづくりの経験を踏まえ、区は99年3月に「風景づくり条例」を制定し、地域で大切にしたい風景を「地域風景資産」として選定するなど、区民の活動を支援してきた。

■「緑の生命線」国分寺崖線を守る
 水と緑が豊かで美しいまちなみを守るためには、区が「緑の生命線」と位置づける国分寺崖線の保全と整備が欠かせない。「近年、宅地開発などにより、斜面地の緑が損なわれてきた。その緑を守るため、風景づくり条例、みどりの基本条例に加え、2005年3月には国分寺崖線保全整備条例、斜面地における建築物の制限に関する条例を制定した。この区独自の4つの条例により国分寺崖線の保全整備を進めている」

 国分寺崖線は、区の水と緑の風景軸に指定され、東京都の景観基本軸にも位置づけられている。崖線は複数の自治体にまたがっているため、緑の保全には区の取り組みに加えて、関係自治体との協力が不可欠だ。このため「10月に三鷹市、大田区など崖線上の自治体が集まって、国分寺崖線首長サミットを開く予定にしている。自治体が連携して保全整備についての取り組みを話し合う」方針だ。

 区内の大半は住宅地だが、幹線道路である環状8号線の西側には畑が広がる地域もある。「相続や農家の後継者問題で、畑を手放してしまう。農地は(災害時など)いざという時、貴重な空間になることから、世田谷の原風景ともいえる畑を守っていかなければならない」と話す。

 区は景観法の施行に伴い、法に基づく風景づくりを推進するため、条例による風景計画を景観法の景観計画に位置づけることにした。すでに05年から区民参加のワークショップを開いて、新たな風景計画案をまとめている。住む人が主役となった風景を創出するために、地域の特徴を生かす、歴史を大切にする、暮らしやにぎわいの風景をつくることなどを盛り込んでいる。

 都内の景観行政団体は現在、東京都だけである。景観行政における都と区市などとの役割分担が固まっていないためで、この状況を踏まえ熊本区長は「始めに景観行政団体ありきとは考えていない。風景づくりの取り組みを積み重ねていくことが大切だ」と断言する。今後、風景づくり条例を改正し、現時点では、07年4月の施行をめざしている。

 区長の選んだ“風景ベスト3”は、都民だけでなく近県の人達もよく訪れ観光名所にもなっている等々力渓谷、区の緑の生命線・国分寺崖線、下町にあった寺が関東大震災により烏山に集まり形づくられた寺町、を考えながら挙げた。

■安全・安心なまちは区民の理解を得る
 行政の最優先課題は「区民の生命と財産を守ること」にある。06年度は安全・安心のまちづくりの集大成にしたい考えで、「そこに生まれ、育ち、学ぶことで、郷土を愛する気持ちのある地元区民の理解と協力を得ることが重要」とみている。話題となっている下北沢のまちづくりについても「予防型行政に転換する中、安全・安心のために地元に理解してもらい、駅前広場整備を実現したい」と意欲を見せた。

2006年6月26日付『建設通信新聞』より

生活の積み重ねによる
『風景づくり』が大切
世田谷区長 熊本哲之
国分寺崖線最南端に位置し、1kmにもおよぶ都区内唯一の渓谷『等々力渓谷』。多くの植物、生物を見ることができる自然の宝庫である
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