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私の景観論

 高知県中西部、四万十川源流域に位置する梼原(ゆすはら)町は、典型的な中山間地域である。人口は4625人、町面積の9割が森林。この小さな自治体が、職員の努力、住民の頑張りで、基金を蓄積。「自然循環型のまちづくり」「街並み、風景、山を取り込んだ景観形成」に意欲的な取り組みを見せる。中越武義町長は「合併を選択しなかったが、豊かな自然、1100年の歴史・伝統・文化を活かし、小さくても子供たちのために、日本のために、将来へつながる町をみんなでつくっていく」と話す。

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 梼原町には、傾斜地形を利用した千枚田をはじめ、東西25?に広がる四国カルスト、坂本龍馬が駆け抜けた脱藩の道、梼原川にかかる沈下橋、かやぶきの茶堂などが現存、貴重な観光資源になっている。

■芸術的風景を創出継承する「千枚田」
 中でも、千枚田は「梼原の町づくりの原点」と語り継がれている。厳しい条件の中でも、農耕作をし、棚田を守り、芸術的な風景をつくり出すという営みが継承されているのである。人口減少、高齢化もあって、このままでは棚田が荒れてしまうという時には、「千枚田オーナー制度」をスタート(1992年)させ、見事に危機を乗り越えた。都市・農山村交流のモデルとなり、95年には第1回の「全国棚田(千枚田)サミット」を梼原で開催させている。

 こうした経緯を知り尽くす中越町長は、「自然との共生」「都市との共生」の精神を分かりやすく発展させ、住民と地域の活性化に役立つ、国や県の補助・指定事業を積極的に呼び込んでいる。

 その代表格が、標高1300mの四国カルストに設置した2基の町営風力発電機(1基600kW)だ。99年から稼働、年間の売電収益は、3800万〜4600万円にのぼる。この収益を環境基金として積み立て、四万十川の「水」をつくる山の機能回復や、森林の保全に役立てている。

 また、自然エネルギーの推進策として、住宅用の太陽光発電、地熱、小水力などの設置や環境対策には町独自の助成を行う。

 この町営風力発電導入のきっかけは、増える公共施設の維持管理費に悩み、住民と懇談したのがヒントになったという。そのころ、国道197号沿いに「雲の上のホテル・レストラン」が94年オープン、温泉は96年11月に、ライダーズイン、プールが98年までに順次整備された。建築家、隈研吾氏の洗練されたデザインである。運営管理は町が51%出資する第3セクター。

■循環型まちづくりへ自然エネルギー活用
 これら光熱費をいかに削減できるか。知恵を絞った結論は、「自然エネルギーを活用した循環型のまちづくりに辿り着いた」(中越町長)と、いきさつを語る。四国電力と折衝し、風力発電は売電となった。平均風速が良好なので、2基だけでも抜群の発電収益である。

 雲の上・温水プールの熱源には地熱を使う。地中100mから熱交換パイプで地熱を取り出し、約7割の光熱費を賄っている。

 先取り精神旺盛な梼原町だけに、まちづくりと景観形成の施策には率先して対応する。「梼原町街並み景観要綱」は04年4月に施行。05年4月には景観行政団体になった。今年度内には庁舎周辺地区の集落を景観形成地区に指定したい考えでいる。

 景観形成基準(案)によると、建築物は、木、土、石、水などの自然素材(地場産)を原則とし、高さは2階建てまでに規制する(公共施設を除く)。意匠は屋根、外壁、開口部を周辺の景観に調和するように求めている。

 今秋に完成する新総合庁舎は、地元産の木材など自然素材をふんだんに使用したユニークな造りとなっている(隈研吾氏の指導で慶応大学理工学部が設計)。この庁舎を景観形成地区のシンボルとして、また防災拠点として順次、自然と共生し、やすらぎを感じる街なみの形成を図っていく。

 中越町長は力説する。「例えば高齢化。都市の問題、地方の問題というのではなく、共に生きていくことを考えよう。それこそが共生の精神。住民には“無いもの”ではなく“良いもの”を探していこう」

2006年7月10日付『建設通信新聞』より

「自然との共生、都市との共生」
ベースに
梼原町長 中越武義
梼原の町づくりの原点となっている千枚田。オーナー制を導入し保全に努めている
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