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私の景観論

 尼崎市はことし、市制90周年を迎えた。古くは弥生時代から人が住み、港町、城下町、工業都市として発展してきた。戦後は日本の高度成長を支えた反面、“公害”など負の遺産も抱え込んだ。市域がほとんど市街化されているなかで、「街に愛着を持ち、今あるものを見つけて掘り起こし、磨いていこう」と、白井文市長は車座集会、市長室オープントークなどを開き、市民と協働のまちづくり、景観づくりに取り組んでいる。

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 白井市長は尼崎市を、「五目御飯のようなまち」と表現する。「上質なだしで味を整え、いろいろな具が入っている。具は単独で食べるよりは、重ねて食べた方がすごく深みがでてくる。尼崎市は産業都市でありながら良好な住宅地もあり、古い歴史も文化もある。スポーツも盛んで阪神間で有数の商店街もある。いろんな顔があって街のコンセプトも絞れないが、それが強みであり生かしていけば良いのでは」と説明する。

■五目御飯のまち その強み生かす
 実際、全市域が市街化され密集しているなかでまちづくりを進めているのが現実だ。

 「海のほうから発展し、昭和の時代には重厚長大型産業が発達した街。そんななか公害に悩んだ歴史を踏まえ、現在では環境に配慮したまちづくりが進められている。産業遺産など、今あるものを見つけて、掘り起こして磨いていこうという思いを市民も企業も持ちはじめている」

■風景を絵葉書に『工都の情景』発信
 「私たちの街を象徴しているのこぎり屋根、煙突、クレーン、ベルトコンベヤー、配管、工場の風景・壁などを街の風景としてとらえた写真コンテストを開き、それらを絵葉書にした『工都の情景』を発信している。それはよそにはないわが街の風景であり景観になっていく」

 一方で、北部の阪急神戸線の住宅地「武庫之荘4丁目地区」では、地域住民による街づくりが、「都市景観大賞」の特別賞に輝いた。他の地域は風光明美な城下町などだったが、尼崎市だけが特別賞だった。高さ制限や色彩計画だけでなく町のルール、マナーやエチケットまで決めているものだ。

 たとえば単車で速く走らないとか犬の散歩などの生活マナー、交通マナー。防犯から地域のふれあいまで、区域外の人にも守ってほしいことを決めているところが面白いということで高く評価された。「ソフト面で工夫すれば、いくらでも良い景観、良いまちづくりが行える」ことを証明した。

 全市的には1986年から「まちかどチャーミング賞」を設け、こんなことを工夫すれば景観が良くなるということを広げていく取り組みを行っている。民間の病院や幼稚園の取り組みなど、民間が取り組んでいる情景・風景を顕彰している。

■意識の持ち方次第で美しい景観は作れる
 「新しいことができなくなっているなかで、どう知恵を出していくか。美しい街並みについて、自分のものでも街の中では街をつかさどる重要なファクターだという意識をいろんな人たちが持つことで、市街化された地域でも、少しずつ美しい景観というものを作り上げていけるのではと考えている」

 尼崎を発信する取り組みはほかにもある。尼崎で作られている名品、逸品、知られていないものをコンペ方式で選ぶ『メイドインアマガサキカタログ』もユニークだ。身近な自然の大切さを訴えるカレンダーでは、ホタル、尼いも、富松一寸豆など身近な自然を写して紹介する。

 今後の景観行政の在り方について、「将来的には屋外広告のあり方も考えていきたい。大阪に近い巨大マーケットで、企業の看板や建物などに対する規制は県条例しかない。部分的には武庫之荘など地区計画を作っているところが点在しているが、市として一定の方針を出す時にきているのではないかとも考えている」と語る。

2006年8月21日付『建設通信新聞』より

街に愛着持ち
いまあるものを磨こう
尼崎市長 白井 文
尼崎の象徴ともいえる工場の風景。写真コンテストを開き、絵葉書として発信することで街の景観として育っていく
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