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私の景観論

 大和平野南部に位置する奈良県橿原(かしはら)市は、初代天皇の神武天皇が即位し、日本建国の地とも言われている。わが国初の本格的な都である藤原宮跡や、万葉の時代を思わせる大和三山、中世の街並みが残る今井町など多くの歴史遺産が点在しており、美しい景観を誇る。「古代から先人が積み上げてきた景観を後世に残す必要がある」という安曽田豊市長に取り組みを聞いた。

◇     ◇

 「都市基盤整備は一定のめどがつき、市民の意識や行政に対する要望も変化しつつある。市が景観に関するアンケートを実施した結果を見ても、多くの市民が景観形成についての施策展開を望んでいる」
 商業施設やマンションの集積が進んでいる。「雇用や税収の増加など市にとって利点も多いが、幹線道路沿いの広告物や建築物が橿原の美しい景観に影響を与えている」のも事実だ。

■4月に景観条例施行許可基準見直し展開
 市は、02年5月に景観形成ガイドプランを策定、同年11月に市民アンケート調査や大規模建築物等の実態調査を実施するなど、積極的に景観行政を進めてきた。06年4月に景観行政団体になり、07年4月には、景観条例を施行する予定だ。

 「条例では、市全域を景観計画区域とし、大規模行為について、助言・勧告を行う。今後、眺望保全地区や景観形成地区の設定、屋外広告物の許可基準の見直しなどさまざまな施策を展開したい」

■中世感漂う今井町いまも人々が生活
 中世の環濠集落を母体とし、江戸時代のまちなみが残る今井町も有名だ。「佇むと、中世の時代にいる錯覚に陥る。400世帯あまりの人が現在も生活を営んでいるのも珍しい」

 今井町は、93年に重要伝統的建造物群保存地区に指定された。「この制度は、今井町の保全をきっかけに国が制定したと聞いている。市としても、80年に歴史的環境保全市街地整備計画策定調査に着手、歴みち(歴史的地区環境整備街路事業)やまちなみ環境整備事業に取り組んでいる」と施策を説明する。今西家住宅など9件が重要文化財に、3件が県指定文化財に、5件が市指定文化財に指定されている。

■市民らが空家対策行政も積極的支援
 一方、空家・空地が増加しておりまちづくりや景観に影響を与えている。市民やNPO(特定非営利)法人、専門家が連携し、空家対策について独自の取り組みがスタートしており、「行政としても積極的に支援したい」という。

 藤原宮跡は学術的に貴重な遺跡で、国の特別史跡に指定されている。予算面や敷地が60haと広大な面積であることから、事業区域は7割にとどまっており、整備時期も未定となっている。市が暫定的に敷地の一部を借り受け、景観形成を目的に春、夏、秋の季節の草花を植える。「藤原宮跡から見る大和三山(香久山、畝傍山、耳成山)の眺望は万葉集にも詠まれ、圧巻」と語る。

■良好な住環境を形成地域特性が街並みに
 「今井町や大和三山、藤原宮跡以外にも大和八木駅前や橿原神宮駅前などの市街地の景観、田園住宅地の景観、住民の努力で良好な住環境が形成されている橿原ニュータウンなど地域特性を反映したまちなみとしての景観があり、これが橿原市の特色でもある」という。

 「古代から中世を経て現代へと、景観は先人達が築きあげてきたもの。われわれは景観を守り、後世に伝えていく使命がある」と結ぶ。

2006年9月4日付『建設通信新聞』より

先人の積み上げた景観
後世に伝える
橿原市長 安曽田豊
『今西家住宅』。重要伝統的建造物群保存地区の今井町にある今西家住宅は重要文化財に指定されている
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