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私の景観論

 景観法の施行後、全国に先駆けて景観地区の都市計画決定を実施した東京都江戸川区。景観地区となった一之江境川親水公園沿線は、小川のほとりに農地や社寺が残り、区の原風景をとどめている。「景観地区の決定にも、景観を守ろうという意識が住民の中にあることが大きく、賛同が得やすかった」と語る多田正見区長に、景観地区決定まで区が歩んできた取り組みについて、話を聞いた。

◇     ◇

 一之江境川親水公園沿線景観地区は、長さ約3.2kmの公園の両側20mの範囲にわたる約19haの面積で、街並みや自然環境の保全を進める。2006年12月に景観地区と景観形成地区計画の都市計画決定となった。既成住宅地での親水公園の水と緑を生かした景観形成を進める点が特徴的で、その原点は住民の環境への思いにある。

■平らな地形に注目水辺空間を生かす
 「江戸川区は平らな土地にあり、山などを借景にすることも期待できない。ならば、区の地域ごとの個性をどう捉え、それに見合ったものを見つけるか」という視点が、江戸川区の地域づくりの始まりだった。そこで区長が注目したのは、水辺空間だ。区内は荒川、江戸川の河川のほか、これらから派生した河川がある。

 「かつては総武線と京成線があるだけで、南部の葛西などは都心に行くにも1日仕事だった」と語るほど、都心に近い割に交通の利便性は向上していなかった。その上、荒川と江戸川の氾濫による水害が多いことが、「この街を区民みんなでよくしようと考える土壌が生まれた」と見ている。

■親水への取組みが緑化運動を後押し
 下水道の普及では、水害対策以外の実りも得た。「きれいな水が流せることは、親水公園が整備できるもとになった。また、側溝がなくなったので、そのスペースに街路樹を植えた」と、水害を逆手に取った発想を呼んだ。

 その象徴が、1972年から整備した古川親水公園である。都市化による排水などで汚れた川を、浄化した水を流してよみがえらせた。区長も「緑化運動の推進剤になったのでは」と語るほど区民の印象を変えた。その後も小松川境川、新長島川、新左近川、一之江境川と親水公園ができるたびに、地元住民の間で「愛する会」が誕生し、自ら清掃を進めるなど保全活動が活発になった。区でも、東京23区で唯一公園管理に特化している財団「環境促進事業団」を80年から設立し、活動をバックアップしている。

 江戸川区の水辺空間は、川だけでなく東京湾に面した海辺もある。79haにおよぶ葛西臨海公園は、区内の海岸線の大半を整備した公園だ。「先人の賢明の選択で、他区の臨海部は業務用施設が多い中、公園を整備できた」と区長も誇る公園だが、公園の完成にも地元の声が反映されたものとなっている。

■自然残す気持ちから葛西臨海公園を整備
 「長さ約4.5kmの防潮堤が張りめぐらされ、海が見えなくなっただけでなく、汚れて漁業も成り立たなくなった」と語る沿岸部には、再整備の声が上がった。「昔の自然を取り戻し、自然を残した海岸線に」と訴える地元の声は大きくなり、海上や干潟の整備で主体となる東京都や国も耳を傾けた。

 区の緑化は70年ころから進め「皇居のようにまとまった緑でなく、まんべんなく緑がある区にしたい」と言う方針のもと、「緑を植えるには公園の整備が必要」と、341haにわたる公園を整備した。今や人口66万人の区民を抱えるが「公園面積は23区で一番広い」と胸を張る。

 今後は、水辺空間を生かした緑化も進める。荒川のスーパー堤防上には2003年3月に「小松川千本桜」が完成したところだが、新たに新川の沿線約3kmに次なる千本桜を目指す。

 「東京23区内で、千本以上の桜があるのはこれまで6カ所あった。完成すれば8カ所の千本桜のうち2つが江戸川区となるので、桜の名所では東京一になれる。そして日本一へとつなげたい」と期待を膨らませた。

2007年4月2日付『建設通信新聞』より

桜の名所で東京一、
そして日本一に
江戸川区の原風景をとどめる『一之江境川親水公園』の沿線。水と緑を生かした景観形成には市民の環境への思いが強くある
江戸川区長 多田正見
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