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私の景観論

 茨城県建築士事務所協会は、県から景観整備機構の認定を受け、良好な景観形成の担い手として公的な立場からまちづくりを支援している。

 現在の主な活動は、景観に関係する各種委員会への委員の派遣と、茨城建築文化賞の運営の二つだ。とくに同賞は今年度で20回目を迎える息の長い活動で、地域の周辺環境に調和し景観上、また機能的に優れている建物などを表彰することで、魅力あるまちづくりへの機運を高めている。

 これまでの取り組みが評価され、県内での同賞の知名度は高い。これらの活動を続けてきた同協会の横須賀満夫会長に、都市景観への考え方や取り組みなどを聞いた。

◇     ◇

 「建築に、景観の観点から仕事を進める考え方が増えてきた。決められた敷地だけを見た経済性重視の一品生産から、面的一体的に広い範囲で街ごとに見る目を考える機会が多くなってきた。それは、地区を全体で見て全体の利益を考えることである。そのなかで建築が地域にどう貢献できるのかを考え、プランをつくり実行していかなければならない」

 まちづくりや景観を形成する上でなくてはならないのは「職と住の一体化」だという。

■顕著なテナント化が空き店舗の土壌生む
 「昔は1階店舗、2階が住居という使い方が一般的で、街がそのまま人でもあった。しかし現在、例えば水戸駅前のメーン通りでは、職と住の分離が進み、商店街のテナント化が著しい。テナントとして入った店舗の経営者は、街に対する愛着があまりなく、テナント化が空き店舗を生む土壌ともなっている」

 街への愛着のなさは早朝の散歩でよくわかるという。

 「朝、散歩をすると商店前の歩道のごみが目につく。街に愛着がない証拠だ。そんな一端を見て、良好な景観を形成する難しさを感じる。危機感が募るばかりだ。職と住の分離が一因であり、ぜひ一体化に取り組むべきである。一体化することで人の心が景観形成に影響を与えれば、その街に合った素晴らしい街並みができるはずだ」

 事実、水戸には水戸にしかない個性ある景観を形成することが望ましいと感じている。また、それが本来の姿だと思っているとも。

 「景観に携わる人々自身が、その街において良好な景観を形成する上で真に何が必要なのかが、わかっていないことが多い。大都市の成功事例をそのままこの街に落とし込もうとしても、うまくいくわけはない。何が本当によいものなのか、何をまちづくりに取り入れていけば良いのか、その本質を地域の人々が理解していない。水戸には歴史的によいものが沢山あり、それを大切にする考え方があると思う。それらを蔑ろないがしにして、街づくりを進めることはあり得ない」と語る。

 常々水戸の街並みについて考えてきて、思いついたプランがあると打ち明ける。水府提灯すいふちょうちんを使った景観づくりである。約380年前の江戸時代に水戸藩の産業振興として生まれた水府提灯を、景観の一つに加えるプランだ。水戸は提灯の日本三大産地の一つとして有名であった。歴史的背景からみても申し分ない。

■提灯で暗闇を照らす歴史を踏襲した景観
 「水戸芸術館などの夜間のライトアップは非常に美しい。しかし、これとは反対に、月に数回真っ暗な街をつくってみるのも良いと思う。その暗い街を水戸で生まれた水府提灯が照らす。商店の一軒一軒に屋号の書いた水府提灯を提げることで、水戸の歴史を踏襲した景観を再現する。暗ければ当然、客と店とのやり取りも暗い中で行うことになるが、その不便なやり取りもまた、水戸ならではのものとなる。この暗さが逆に、芸術館などのライトアップをより一層際立たせることにもつながるはず」

 地元の歴史や文化を大切にし、その背景を理解して始めて、よい景観形成が実現する。その視点を忘れず、景観整備機構としての同協会の取り組みを活発化させる考えだ。

2007年5月21日付『建設通信新聞』より

「職と住の一体化」は
欠かせない
水戸京成デパートの隣接地からスケッチした水戸芸術館方面の街並み。同館周辺のまちづくりが今後の課題となる
茨城県建築士事務所協会会長
横須賀満夫
水戸の水府提灯の老舗「蔭山利兵衛商店」に飾られた伝統の提灯
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