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夕焼けのグラデーションは「なじみの原理」と「秩序性の原理」
2005年10月18日付『建設通信新聞』より
第6回「色彩調和」

財団法人日本色彩研究所 赤木重文

 景観に限らずどのような分野の色彩計画であっても、色彩設計案の立案(色彩デザインの制作)は、計画の成否を左右する最も重要なステップです。色彩デザイン制作を進めるに当たっては、数々の留意点を挙げることができますが、その中でも最も基本的な事項は「配色効果」でしょう。2色以上の色を組み合わせること、またその組み合わせ具合を配色といい、配色が私たちの心理に及ぼす効果を「配色効果」といいます。さらに、最上の配色効果を色彩調和といい、過去に多くの研究者が色彩調和には普遍的法則があると信じて、その解明にいそしんできました。

 景観設計のように、その結果が公共性を帯びるほど、色彩調和のような価値観が求められてきます。

 アメリカの色彩学者ジャッドは、過去の色彩調和に関する文献を整理し、一般的に認めることのできる色彩調和の要因を4種類にまとめ、これを色彩調和の原理として報告しています(1955年)。これは、「秩序性の原理」「類似性の原理」「明瞭性の原理」「なじみの原理」と呼ばれています。「秩序性の原理」は、カラーシステムのように規則的に配置された色群の中から、規則的に選択した色は調和するというものです。「類似性の原理」は黄色と黄緑のように共通の要素を持った色どうし、「明瞭性の原理」は明快なコントラストを持つ色の組み合わせは、調和するというものです。さらに「なじみの原理」は、見慣れた配色には不快感を抱かないというものです。

 色彩調和を景観の側面から整理すると、最も関係の深い原理は、「なじみの原理」です。自然景観の色彩のあり様は、われわれに安堵感や調和感、ときに感動すら与えます。人は古くから自然景観に親しんできた結果でしょう。

 環境のベーシックカラーという印象を与える土や砂の色、われわれに潤いと安らぎを感じさせる植物のミドリ、季節によって雰囲気を変えることにより時節を演出する葉色の変化、光の効果を感動的に伝えてくれる空や水面など、自然環境色の表れ方は景観の効果を分りやすく具現化してくれるとともに、そこに景観形成手法の教示さえ読み取ることができます。

 自然景観から受ける美的印象を分析すると、確かに「秩序性の原理」「類似性の原理」「明瞭性の原理」に相当する部分も多く見受けられますが、景観に限っての注釈が必要になるケースもあります。たとえば、「類似性の原理」から推察すれば、グリーンの人工物は自然の緑と調和するはずですが、むしろ違和感を覚えてしまいます。人工的なグリーンは微妙な素材感や陰影を伴わないこと、決して自然の緑を美しく見せてくれる色ではないことがその原因だと思われます。

 近年、実験心理学の発達によって、大規模な色彩調和の実験も行われるようになり、三属性の値から調和の程度が、ある確立ではありますが予測式で求められるようになったと言えます。しかし、モノづくりにかかわる設計家やデザイナーの立場に立って考えてみると、感性的な判断が必要な検討課題を、100%保証されているわけでもない予測式というブラックボックスに預けてしまうのはなんともつまらない行為のような気がします。ジャッドがまとめた定性的な4つの原理を頭にたたき込んで、試行錯誤した方が色を扱っている喜びを実感できます。とくに景観の場合、色以外の要素が色の評価にも影響を及ぼしているため、この実験結果がそのまま活用できるとは言えないことも、試行錯誤に向かわせる要因となります。色彩による表現の喜びと、景観特有の公共的使命を両立させる姿勢が景観色彩設計には必要だと思います。

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